先日、金融機関に勤めている友人から「個人事業者が法人成りしてんけど、個人の事業用資産が法人の貸借対照表に載ってないのっておかしくない?」と質問を受けました。
「個人と法人で同じ事業をやっているのに事業用資産を引き継でいないのはおかしいんじゃないの?」と疑問をもったようです。
目次
法人成りとは
法人成りとは、個人事業者が株式会社合同会社などの法人を設立して、その営む事業を法人において行うことをいいます。
基本的には、その個人事業者がそのまま法人の代表取締役になるので、同じ人が同じ商売を営んでいるように見えますから、冒頭のような疑問があってもおかしくありません。
ただ法律上は、個人と法人は別人格です。
全く別の人が同じ事業を始めたということになります。
事業用資産を法人に引き継がないといけないの?
結論からいうと、必ずしも引き継ぐ必要はありません。
ですので、法人の貸借対照表に個人から引き継いだ事業用資産が載っていなくても問題ありません。
また、「引き継ぐ」というのも「個人から法人へ事業用資産を譲渡する」というと言った方が実態に合っています。
法人に引き継がせる場合
法人事業用資産を引き継がせる場合は、次のケースが想定されます。
- 個人から法人に事業用資産を時価で譲渡する
- 個人が現物出資により事業用資産を出資して法人を設立する
譲渡する場合
譲渡する場合の注意点は時価を算定することです。
この時価というのがいつも悩まされるのですが、簡単にいうと「社会通念上、一般的に取引される価格」ということなのですが、自動車のように中古車情報で相場がわかるものであれば算定はしやすいです。
相場がわかりにくい資産の場合は、実務上、個人事業者の譲渡時点の帳簿価額を時価とすることが多いです。
また、個人においては、この譲渡により生じた譲渡益は譲渡所得として所得税が課税されます。
- 事業用資産が土地・建物等の場合・・・分離課税の譲渡所得
- 事業用資産が土地・建物等以外の場合・・・総合課税の譲渡所得
現物出資する場合
現物出資とは、資本金をお金ではなくもの(現物)で出資する法人設立の形態ですが、手続がは煩雑なので、積極的には利用しにくいです。
ですので、通常は個人から法人に事業用資産を譲渡するケースの方が私の経験上は多いです。
消費税が課税されます
譲渡にしても現物出資にしても、この事業用資産の法人への移転は消費税の課税対象になります。
個人が消費税の納税義務者であれば、消費税を納めなければなりません。
法人に引き継がせない場合
法人に事業用資産を引き継がせないといっても、法人にその資産を使わせてはいけないということはありません。
今までどおり、その事業用資産を使って商売をしても大丈夫です。
その場合、法人から使用料をもらってもいいですし、個人は必ずしも営利を目的とはしていないので使用料をもらわなくてもかまいません。
ただし、土地を無償で法人に貸し付ける場合は、法人から権利金をもらうか、又は相当の地代をもらう、もしくは無償返還の届出書を税務署に提出しないと、法人において認定課税されますので、土地の場合はご注意ください。
専門用語を並べてしまいましたが、この辺りの判断は慎重にお願いします。
なお使用料をもらった場合、その事業用資産が土地・建物等の不動産なら不動産所得として、土地・建物等以外なら事業所得(又は雑所得)として所得税が課税されます。
まとめ
個人の事業用資産を法人に引き継ぐかどうかは自由です。
法人が引き継いだ場合、その資産の帳簿価額の分だけ減価償却費を計上することができますが、個人で所有したままだと事業を営んでいないので減価償却費を計上することはできません。
ですので、建物などの帳簿価額が大きいものを個人で所有する場合は、法人から賃料・使用料をとれば、個人において減価償却費を計上することができますので、ムダがないといえます。
◆編集後記◆
友人から受けた質問をブログネタにしてみました。
税理士の私の目から見ると当たり前のことでも、他の人からすれば疑問に感じることは結構あるんだろうなぁと感じました。
アンテナの感度を高めておかないといけないですね。
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山端一弥
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