普段、税務ネタはホームページの方に書いているのですが、今回は久々にブログで税務ネタを。
税理士の仕事をしていて怖いことのひとつが思い込みによる間違いです。
中小企業倒産防止共済の掛金は経費になりますが、前納とよばれる翌年分をまとめて払った場合にも経費になります。
節税にはなりますが、ただ、これって毎年継続すること要件だったような気がしていたのですが…
目次
中小企業倒産防止共済とは?
経営セーフティ共済という、いわゆる中小企業倒産防止共済は、取引先の倒産時に借入れができるという大名目はもちろんのこと、掛金が全額経費になり、40ヶ月以上掛金を納付すれば解約時に掛金の全額が返ってくるという、中小企業にとっては使い勝手のよい制度です。
制度の内容はこちらをご覧ください。
前納した場合の取扱い
基本的な考え方
この中小企業倒産防止共済の掛金は基本的には毎月支払うのですが、前納といって将来の分をまとめて払うこともできます。
この前納分は将来の掛金なので、税法の原則的にはその年またはその事業年度の分しかその年またはその事業年度の経費にならず、そのほかの分は翌年または翌事業年度以降の経費になります。
ただし、特例として支払った日から1年以内に役務の提供を受ける場合には、その支払った年または事業年度の経費にできるという短期前払費用の特例があります。
法人税基本通達2-2-14 短期の前払費用
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
※所得税では所得税基本通達37-30の2に同じ内容があります。
この短期前払費用がよく使われる例は、年末または事業年度末に翌年1年分の家賃や保険料を支払う節税策(節税効果としては初年度しかないですが)です。
ただし要件として、毎年継続して同じように支払う必要があり、その年だけ前払いということはできません(一説には3年とも)。
それと1年を超える期間の前払いをした場合は、1年を超えた分だけでなく、1年以内の分も支払った年または事業年度の経費にならない(翌年の経費にはなります)という注意点もあります。
中小企業倒産防止共済でも同じ?
では中小企業倒産防止共済でも短期前払費用の適用はあるのか?
同じように1年以内に期限の到来するものは経費になりますが、ただし、継続適用は要件となっておらず、その年その年で変えても構わないのです。
租税特別措置法関係通達66の11-2 一部抜粋
措置法第66条の11に規定する負担金の損金算入時期は、法人が当該負担金を現実に支払った日(財務大臣の指定前に支払ったものについては、その指定のあった日)を含む事業年度となることに留意する。
措置法第66条の11 特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例 一部抜粋
法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
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二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第2条第2項に規定する共済契約に係る掛金※所得税でも同様の規定があります。
中小企業倒産防止共済は租税特別措置法第66条の11で別に規定されており、負担金を現実に支払った事業年度の経費となることが定められています。
つまり期間対応云々ではなく支払った分だけが経費になると。
中小企業倒産防止共済の前納掛金は、短期前払費用ではないので継続適用も求められていないんですね。
倒産防止共済の前納手続きは毎年しなければならず、もし手続きし忘れていたとしても前年にした前納が否認されるわけはないので安心ですね。
ただし、800万円の限度額はあるものの、節税のために相当先までの前納をしようとする行為を封じ込めるために、短期前払費用と同様の制限が加えられています。
租税特別措置法関係通達66の11-3 中小企業倒産防止共済事業の前払掛金
中小企業倒産防止共済法の規定による共済契約を締結した法人が独立行政法人中小企業基盤整備機構に前納した共済契約に係る掛金は、前納の期間が1年以内であるものを除き、措置法第66条の11第1項第2号に掲げる掛金に該当しない。
「1年を超える前納は認めないよ」ということですね。
中小企業倒産防止共済のもう一つの注意点
前納とは関係ないのですが、中小企業倒産防止共済でもう一つ重要なのが、明細書の添付です。
倒産防止共済は本来積立金であって、経費にするためには明細書の添付が必要なんですね。
措置法第66条の11 特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例 一部抜粋
2 前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。以下省略
法人の場合には別表十(六)と適用額明細書です。
個人事業者の場合は、特に決まった様式はないので、支払った掛け金の金額と期間を記載していれば問題ないでしょう。
※以前は中小企業基盤整備機構のHPには様式のサンプルがあったのですが現在はなくなっています。
まとめ
私自身、倒産防止共済の前納掛金は短期前払費用だと思い込んでいましたが、条文や通達を調べてみて、そうでないことが分かりました。
あらためて思い込みの怖さと、当たり前と思っていることを疑う姿勢が重要だと気付かされました。
税理士事務所のHPや書籍でも短期前払費用としているものもあって、情報が錯綜していましたので、情報の裏付けを取ることも本当に大事ですね。
◆編集後記◆
今回のネタのきっかけは、HPのお問い合わせフォームから舞い込んだ税務相談でした。
無料の税務相談は受け付けていないんですが、Googleフォームの設定ミスで問い合わせに気付いたのが3日後ということもあり、後ろめたさから特別にお答えしてしまいました。
まあ、私の勉強にもなりましたし、ブログネタにもなったので良しとしますかね(もうしませんが^^;)。
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山端一弥
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